障害者雇用の離職率はなぜ高い?離職理由と定着率を上げるポイント
更新日:2023年11月13日

障害者雇用率の達成には新規採用も重要ですが、雇用した方の定着率を高めることも欠かせません。離職を防ぐことは採用コストを抑え、安定した障害者雇用を継続するために極めて重要です。なぜ障害者雇用の離職率は高いのでしょうか。離職の主な理由や傾向を事前に把握できれば、企業として適切な対策を立てることができます。そこで本記事では、障害者雇用の離職率が高い理由と主な離職理由を解説し、それらをふまえた「定着率を上げるためのポイント」について詳しく紹介します。
目次
障害者枠の一般企業における定着率の実態
業種別の定着率
まずは、障害者にとって長く働きやすい業種に傾向があるのかを見ていきましょう。
厚生労働省の「障害者雇用の現状等(平成29年)」にある「就職先企業の産業別にみた職場定着率の推移と構成割合」から、働いている障害者数が多い主な産業を抜粋してご紹介します。

データによると、「医療・福祉」と「生活関連サービス・娯楽業」がほぼ同等の高い数値となっており、定着率トップ2と言えます。
全産業の平均定着率は「3か月後:76.5%」「1年後:58.4%」となっており、この平均値をクリアできるかが一つの目安となります。一方、離職率が比較的高い(定着率が低い)業種としては「宿泊・飲食サービス業」や「建設業」が挙げられ、1年後の定着率は50%を切っています。
一般的な平均離職率が約15%前後、高いとされる新卒の「3年以内の離職率」でも約30%であることを考えると、多くの産業で3か月時点で約30%(定着率70%前後)が離職している障害者雇用は、産業を問わず全体的に離職率が高い傾向にあると言えます。
障害の種類別の定着率
次に、障害の種類によって定着率に差があるのかを見ていきましょう。『障害者の就業状況等に関する調査研究』のグラフ「障害者の職場定着率(障害種類別)」によると、1年以内の定着率にはある一定の傾向が見られます。

出典:『障害者の就業状況等に関する調査研究』 (2017年、JEED)
障害種別の就職1年後の定着率を比較すると、発達障害(71.5%)と知的障害(68.0%)が高い一方、身体障害(60.8%)と精神障害(49.3%)は低く、精神障害は約半数が離職する結果となっています。
この差の主な要因は「採用枠」の違いです。知的・発達の約8割が配慮を得やすい「障害者求人」で採用されるのに対し、身体・精神は離職率が極めて高い「一般求人(障害非開示など)」での採用が多く含まれるためです。
実際に「障害者求人」に限定すれば、1年後の定着率は精神(64.2%)・身体(70.4%)を含め全体的に安定した水準となり、適切な配慮と採用枠の選択が定着を大きく左右することが分かります。
企業規模別の定着率の実態
続いて、企業の規模によって定着率にどのような違いがあるのかを見ていきましょう。
出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究」
全体的な傾向として、企業規模が小さいほど1年後の職場定着率が低く、離職率が高いことがわかります。特に従業員数50人未満の小企業においては、1年後の職場定着率は46.9%(離職率53.1%)で、半数以上の障害者が離職しているという結果になりました。
大きな企業になるほど定着率は高くなりますが、最も定着率が高い従業員数1,000人以上の大企業においても、1年後の離職率は34.2%(定着率65.8%)と、約3割の障害者が離職しているのが実態です。
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障害者が抱える不満と企業の実態
では、続いて気になる障害者の離職理由についてのアンケート集計を見てみましょう。こちらは「平成25年度障害者雇用実態調査」(厚生労働省)を参照します。こちらの調査ですが、対象となる障害者に「離職理由(個人的理由)」と「(仕事を続けるうえで)改善が必要な事項」の2つの質問をしていますが、知的障害者はこの質問の対象外となっています。また発達障害者については、障害者雇用促進法に基づき、精神障害者に含まれるものと推察します。
障害者の離職理由の上位
| ● 職場の雰囲気・人間関係(身体・精神)
● 賃金・労働条件が合わない(身体・精神) ● 仕事内容が合わない(身体・精神) ● 疲れやすく体力意欲が続かなかった(精神のみ) ● 症状が悪化(再発)した(精神のみ) ● 作業、能率面で適応できなかった(精神のみ) |
「疲れやすく体力意欲が続かなかった」、「症状が悪化(再発)した」、「作業、能率面で適応できなかった」という理由は精神障害者特有のものと言ってもよく、精神障害者を雇用する場合はこのあたりの配慮を重点的に行うことが定着のポイントになると言えます。
「職場の雰囲気・人間関係」、「賃金・労働条件が合わない」、「仕事内容が合わない」という理由は何も障害者だけではなく一般的に離職理由の上位に上がってくるものです。
これは、障害者はそれぞれの障害特性に合わせた配慮が必要という以外は、仕事や職場に対して持っている要望は他の労働者と変わらないという、あまりにも当然の結果と言えます。
身体障害者の離職理由|労働条件と「バリアフリー・設備面」の配慮不足
障害者職業総合センターの「調査研究報告書No.137」によると、身体障害者の1年後定着率は60.8%にとどまり、約4割が離職しています。主な自己都合離職理由としては、
● 「労働条件が合わない」(約25%)
● 「業務遂行上の課題」(約18%)
が上位を占めています。
身体障害者の場合、車椅子移動や視覚・聴覚支援など、障害特性に合わせた物理的環境の整備が欠かせません。そのため、賃金や時間といった条件面だけでなく、バリアフリー化や補助機器導入などの「設備面の配慮不足」が業務上の支障となり、早期離職につながる傾向にあります。 長期的な定着を果たすには、適切な労働条件の設定と同時に、職場設備の調整が不可欠です。
出典:障害者職業総合センター『調査研究報告書 No.137』
精神障害者の離職理由|人間関係や「体調波・特性」への理解不足
障害者職業総合センターの調査(報告書No.137)によると、精神障害者の1年後の定着率は49.3%と最も低く、約半数が早期離職している実態があります。主な自己都合離職理由としては、
● 「障害や病気のため(体調・症状悪化や疲労)」(約35%)
● 「職場の雰囲気・人間関係」(約20%)
が上位を占めています。
精神や発達の障害は外見から分かりづらいため、「体調の波」やコミュニケーションの特性に対する職場の理解が不足しがちです。その結果、人間関係の摩擦や過度な負担から症状が悪化し、離職につながるケースが多く見られます。定着には周囲の理解と、体調変化に対応できる柔軟なソフト面の配慮が不可欠です。
発達障害者の離職理由|人間関係や「労働条件」への柔軟さ不足
障害者職業総合センターの「調査研究報告書No.137」によると、発達障害者の1年後の定着率は71.5%となっています。主な自己都合離職理由としては、
● 「職場の人間関係」(約28%)
● 「業務や労働条件が合わない」(約22%)
が上位を占めています。
発達障害者の場合、曖昧な指示への対応やマルチタスクの調整、対人コミュニケーションにおいて課題が生じやすい特徴があります。そのため、明確な業務指示や適性に応じた作業内容の調整といった柔軟な配慮が不足すると、職場への不適応を起こして離職につながりやすくなります。長期的な定着を果たすには、周囲の特性理解と働きやすさに応じた柔軟な労働条件の設定が不可欠です。
改善が必要な事項の上位
| ● 能力に応じた評価、昇進・昇格
● 調子の悪いときに休みを取りやすくする ● コミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置 ● 能力が発揮できる仕事への配置 |
こちらは障害者が会社側に求める改善点ですが、こちらも「調子の悪いときに休みを取りやすくする」、「コミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置」は障害者特有の要望と言えますが、逆に障害者雇用において十分に配慮すべき点であるのにできていない事業所が多いという結果が浮き彫りになります。
また、「能力に応じた評価、昇進・昇格」、「能力が発揮できる仕事への配置」は障害者でなくても持っている会社側に求める改善点です。
これらの結果からわかることは、障害者の離職の理由は障害者特有の悩みへの配慮が不十分であるということと、誰もが持ち得る待遇、評価、給与面などでの会社への不満に二分されるということです。あくまでも統計上の結果ですが、これが企業側の実態であり、障害者雇用において定着率を上げるためにはこの二点を解決していく必要があります。
【企業の人事担当者編】障害者雇用・職場定着で現場が抱える課題
障害者雇用を進めるうえで、法的雇用の達成だけでなく「いかに職場に定着してもらうか」が多くの企業にとって共通の大きな課題となっています。厚生労働省の「障害者雇用実態調査」などによると、多くの人事担当者が採用や職場定着に関して次のような悩みを抱えています。
| ● 業務切り出しの難しさ (社内に適した仕事があるか分からない)
● ノウハウの不足
● 現場の理解・配慮不足
● 環境・安全面の整備 |
障害者の離職を防ぐには、単に人員を配置するだけでなく、こうした企業側の受け入れ課題の解決が欠かせません。配属部署への特性理解の啓発や適切な業務切り出し、設備やルールの柔軟な調整といった「定着支援」を組織全体で推進していくことが不可欠です。
出典:厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課|令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書
障害者が離職率の高い企業に共通する「形だけの配慮」とは?
障害者の離職率が高い企業には、配慮を行っているつもりでも、現場の実態に伴っていない「形だけの配慮」になっているという共通点があります。制度や設備だけを導入しても、実際の運用が形骸化していると離職を防ぐことはできません。
具体的には、以下のようなケースが挙げられます。

形だけの配慮から脱却するには、入社時だけでなく「本人との継続的な対話」を通じてニーズを把握し、現場全体で理解を共有しながら柔軟にサポート体制をアップデートしていくことが不可欠です。
障害者枠の定着率を上げるためのポイント
支援機関との連携
障害者の定着率を上げるために解決すべき問題は、雇用者である企業側だけでできることでも、試みることではないことに留意する必要があります。
そもそも障害者雇用は日本では行政が主体となってはいますが、行政側だけの努力でできるものではなく、逆に企業側に丸投げされているものでもありません。「すべての国民の平等な社会参加」には官民も含めてすべての国民の協力が必要なのです。逆に、企業側だけでできることは限られており、また任されてしまっても荷が重く、障害者の最善の利益を守るためにはあらゆる官民の機関や団体の協力が必要です。
例えば、ハローワークは障害者雇用枠で中心的な働きをする公的機関ですが、求人を出すだけではなく、企業側が求める人材や、必要な配慮、その他の障害者雇用のノウハウ等について、採用後の定着についても相談できる機関です。障害者雇用に関しては一番綿密な連携をとるべき機関と言えます。また、独立行政法人高齢者・障害者雇用支援機構が設置、運営する障害者職業センターは、ハローワークと密接な連携を取り、障害者の就労のサポートをします。具体的には職場適応援助者(ジョブコーチ)の派遣や、企業への相談・援助を行なう機関です。また、障害者就業・生活支援センターは障害者の就労・生活面全般においての相談機関ですが、障害者の職場定着等に関して事業所の相談支援も行ないます。
これ以外にも、就労移行支援事業所を経由して就職した障害者に関しては同事業所の職員が採用後も継続的に定着支援を行いますので、しっかりと連携を取りたいところです。
障害者の志向も考慮する
障害者も障害があるという以外は他の社員と変わらない一人の人格、人権のある人間なのです。当然、働く目的、ゴールは人それぞれです。その働く目的は社会の中での居場所づくりであったり、他者との交流であったり、必要最低限の収入が得られることだったりします。その場合、会社の雰囲気や居心地の良さ、障害への十分な配慮などがあれば定着は可能となります。
一方で、働く側のゴールはもっと高い所にある場合もあります。それは自分の存在や価値を認められたい、正しい評価を受け適切な職務、職位、よりよい給料をもらいたいというゴールです。入社時からそういう高い志向を持つ人もいますし、仕事に慣れて段階的に目標を上げていく人もいます。
一言で”定着”と言っても、それぞれの目標がある以上、それを雇用する側もそれぞれの社員にあった定着に向けた計画と処遇を考える必要があるのではないでしょうか。
まとめ
障害者雇用における定着率は一般の雇用に比べて低い傾向にあります。産業別に見ると医療・福祉、生活関連サービス・娯楽業は比較的に高く、宿泊・飲食サービス、建設業では1年後の定着率は50%を切っていました。
障害別に定着率を見ると、知的障害、発達障害において比較的高く、身体障害、精神障害において低いことがわかりました。身体障害者と精神障害者は一般求人枠で採用された場合、離職率が高いことが原因になっていました。
障害者の離職理由と会社に求める改善には、大きく分けて2種類あることがわかりました。障害とそれに対する配慮に起因するものと、障害とは関係なく働く側として適切な待遇や評価をして欲しいという国内での一般の就労でも離職理由として上位に上がるものでした。
これらの状況を鑑みて、障害者の定着率を上げるために企業側が取り組むべきこととして①障害者枠での雇用に関してはそれに関連した支援機関と連携をすること②障害者も仕事に対する志向は人それぞれで、安定して働けることを目指す人や、職場で自分の能力を発揮し、正しく評価されたい上昇志向の人が存在し、雇用する側はそれらのニーズにあった定着への計画策定や処遇を行なう必要がある、ということです。
障害者の雇用促進は国の政策であり、雇用率達成は義務と捉えている企業も現状では多いかと思います。しかし実際に雇用率を達成し、定着にも成功している企業は現在の人材不足状況下で活路を見いだしてもいますし、CSRの面でもアピールにも結び付いています。なぜ障害者の離職が多いのか、統計的な分析をおこない、具体的な方策を取ることは会社と働く意欲のある障害者の双方に利益をもたらすのではないでしょうか。
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