障害者雇用の面接で配慮すべきこと!質問内容やチェックポイントを解説
更新日:2025年09月11日
企業には、憲法で認められている経済活動の自由を根拠にして、原則として「採用の自由」が保障されています。採用の自由を実現するためには、企業は採否の判断に重要となる事項については確認する必要があります。しかし、職業安定法に基づく指針では、人種や民族、社会的身分、思想・信条などについては、特別な職業上の理由がある場合を除いて個人情報を収集してはならないとしています。一方、憲法22条では国民に対して「職業選択の自由」を保障しています。そのため、企業は応募者の職業選択の自由を保障するために、差別せずに公平かつ差別のない選考を行うことが求められます。厚生労働省のホームページでは、「公正な採用選考の基本」として、本人に責任のない事項の把握や本来自由であるべき事項、採用選考の方法について、13項目の「採用選考時に配慮すべき事項」が示されています。企業の採用担当者が、面接試験で応募者に質問する際には、これらの事項について十分に認識して配慮することが重要です。

目次
障害者雇用の面接も基本は一般雇用と変わらない
採用面接は、障害の有無にかかわらず、応募者の人権を尊重し、能力と適性を基準に行うことが原則です。
厚生労働省は、仕事と無関係な質問を禁じています。具体的には、本人の責任ではない事項(生まれ育ちなど)や、個人の思想信条に関わること(信仰する宗教など)などが挙げられます。これらは就職差別につながる恐れがあるため、質問すべきではないとされています。
面接では、障害の有無に関わらず、応募者の個性や強みを引き出すことに焦点を当てましょう。大切なのは、障害そのものを見るのではなく、本人が仕事に前向きに取り組む姿勢や熱意を評価することです。
障害者雇用の面接で確認するポイント
障害者雇用の面接も、一般雇用と同様に、応募者の能力や適性を見極める重要な機会です。入社後のミスマッチを防ぎ、長く活躍できる人材を採用するためには、以下の3つのポイントに注目することが不可欠です。
社会人としてのマナー
面接は、応募者が社会人としてどのような振る舞いをするかを見極める最初の機会です。基本的なビジネスマナーを身につけているかを確認することで、入社後に円滑に業務を進められるかを判断できます。
清潔感のある身だしなみや丁寧な言葉遣い、質問に対して目を見て真摯に答える態度は、誠実さや熱意を示します。これらのマナーは、障害の有無に関わらず、どのような職場でも求められる基本的な能力です。
長く働くことができるか
障害者雇用では、入社後の定着率が重要な課題となります。応募者が長く働き続けられるかどうかを判断するためには、自己理解と病状への向き合い方が重要です。
自身の障害の特性や必要な配慮を客観的に説明できるか、体調管理の方法などを具体的に把握しているかを確認しましょう。また、求める配慮事項を明確に伝えることも大切です。企業側も応募者のニーズを正確に把握することで、適切なサポート体制を整えられます。さらに、仕事への意欲や具体的な目標を持っているかどうかも、長く働き続ける原動力となります。
業務との適性を確認
障害者雇用でも、業務遂行能力は欠かせません。応募者の持つスキルや経験が、任せる業務に適合しているかを見極めることが重要です。これまでの職務経験やスキルについて、具体的なエピソードを交えて話してもらいましょう。募集職種への興味や関心、自身の強みと弱みを客観的に分析し、業務にどう活かせるかを説明できるかも確認します。
面接官はこれらのポイントを総合的に評価し、企業と応募者の双方にとって最適なマッチングを目指すことが重要です。入社後に能力を最大限に発揮できるよう、一人ひとりの個性や特性を理解しようと努めましょう。
障害者雇用の面接で質問する内容
仕事への意欲
障害者雇用の面接では、仕事への意欲や熱意が重要な評価ポイントです。企業への貢献意欲や長期的な定着を測るため、以下の質問を通じて応募者の本気度を見極めましょう。
1. 志望動機と転職・退職理由
応募者がなぜこの会社を選んだのか、その理由を具体的に聞くことで、企業への理解度を測れます。抽象的な回答ではなく、具体的なエピソードを引き出すことが大切です。
また、これまでの転職・退職理由を掘り下げることで、仕事に対する考え方や課題への向き合い方を知ることができます。
2. 業種や職種への興味
募集している業種や職種に、どのような興味を持っているかを確認します。「この仕事で何を実現したいか」「面白さを感じる点は何か」といった質問は、スキルや経験だけでなく、仕事そのものへの情熱や探究心を見極めるのに役立ちます。
3. キャリアプランと目標
入社後にどのように成長したいか、具体的なキャリアプランや目標を持っているかを聞くことで、向上心や長期的な視点があるかを確認できます。明確な目標を持つ応募者は、困難な状況でも自ら道を切り拓き、長期的に活躍してくれる可能性が高いでしょう。
これらの質問を通じて、応募者が単に「働きたい」だけでなく、「この会社で、この仕事を通じて、どう貢献したいか」という具体的なビジョンを持っているかを見極めることが、採用成功の鍵となります。
これまでの仕事のキャリア
障害者雇用の面接で、応募者のこれまでの仕事のキャリアについて確認することは、その方のスキルや経験、どのような業務に適性があるかを見極める上で非常に重要です。
これまでの職務経歴について、具体的な仕事内容や担当された業務、特に力を入れて取り組まれたこと、そして身につけられたスキル、及びそのご経験を当社の○○(具体的な業務名)といった仕事でどのように活かせるとお考えているかなどについて、質問しましょう。
就労準備が整っているか
障害者雇用の面接において、就労準備性が整っているかを確認することは非常に重要です。この判断には職業準備性ピラミッドが有効なフレームワークとなります。
このピラミッドは、就労に必要な要素を5つの階層で示します。
① 健康管理:体調や服薬の自己管理
② 日常生活管理:規則正しい生活習慣、身だしなみ
③ 対人技能:協調性、コミュニケーション能力
④ 基本的労働習慣:報告・連絡・相談、時間管理
⑤ 職業適性:職務遂行能力、専門スキル
これらの要素は土台から積み上げられており、面接では、応募者がどのレベルまで準備ができているかを包括的に確認し、入社後に安定して就労できるかを判断します。
障害を理解するための質問
面接で障害について質問ことはすなわち、その人のナイーブな点に触れなければならないため、面接官としては非常に気を使うものです。入社後のミスマッチを防ぎ、障害者が働きやすい環境を整備したり、具体的にどのような点に配慮が必要かなどを判断するには、障害について出来るだけ詳しく質問する必要があります。
障害者の面接では、次の点に留意して進めるようにしましょう。
・障害について質問する際は本人の了承を得る
まず、企業には安全配慮義務があり、従業員の障害の程度や困難な事、緊急時の対応などを把握する必要があるという点を障害者に理解してもらいましょう。入社後の配属先や業務内容、働くためにどのような配慮が必要かを検討するために、いろいろな質問をすることを本人に説明して、同意を得たうえで面接を進めましょう。また障害の種類によって、採用試験や面接時に配慮が必要なケースもあります。
障害を理解するための質問は具体的に以下のようなものがあります。
例❶ お持ちの障害について、差し支えなければ特性や、業務にどのような影響があるかお聞かせいただけますか。
例❷ これまでのご経験で、仕事をする上で課題に感じたことや、ご自身で工夫されたことがあれば教えていただけますか。
例❸ 当社で働くにあたり、何か配慮が必要な点、もしくは希望される合理的配慮はありますか?具体的に教えていただけますと、検討させていただきます。(例:休憩時間の調整、業務内容の変更、通院のための休暇、使用する備品など)
例❹ 就業中、体調や症状に変化があった際の連絡方法や、緊急時の対応について共有しておきたいことはありますか。
これらの質問は、応募者の障害を理解し、双方が安心して働ける環境を築くためのものです。企業が入社後に適切な合理的配慮を提供できるように、面接で質問することで、個々の特性に合わせた支援を共に考え、長期的な活躍を支援していきます。
障害者雇用の面接における質問を制約する法律
企業が労働者を採用する際には、さまざまな法律によって周知しなければならない事項や禁止されている事項が定められています。人事担当者や採用担当者が、内容を知っておくべき雇用関係の法律には、職業安定法、男女雇用機会均等法、雇用対策法、労働基準法、個人情報保護法、労働衛生安全法、労働組合法などがあります。このうち「男女雇用機会均等法」と「労働組合法」に関連しては、特に次のポイントに配慮しましょう。
男女雇用機会均等法
「男女雇用機会均等法」には、雇用における男女における均等な機会と待遇の確保や、育児休業や介護休業などに関することが定められ、男女の性別を理由とした募集や採用の差別が禁止されています。女性の応募者に限定して、男女で差がある能力について質問することや、結婚や出産などについて質問することは、男女雇用機会均等法の趣旨に違反する可能性があります。
労働組合法
「労働組合法」の第7条1項には、労働者が労働組合から脱退する、もしくは、加入しないことを雇用条件とするような行為をしてはならないとしています。したがって、採用試験の面接時であっても、労働組合の活動に関心があるかや、労働組合に加入するつもりかなどの質問は避けるべきです。
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障害者の書類選考・面接には、障害者採用ならではのポイントがあります。
どんなことを確認すればいいのか、具体的にご紹介します。
障害者雇用の面接で聞いてはいけないこと
厚生労働省が示した「採用選考時に配慮すべき事項」について、基本的な考え方やNGとなる質問の例を解説します。
基本的な考え方
企業が採用選考を行う際には、「応募者の基本的人権を尊重すること」と「応募者の適性や能力のみを基準として行うこと」を基本的な考え方とすることが大切です。また、公正な選考を行うためには、雇用条件や採用基準に合った全ての人が応募できるようにすることと、本人がもつ適性や能力以外のことを採用の条件にしないことが必要です。
そのため、面接試験では、応募者の適性や能力に関係のない事柄については質問しないことが重要です。これらの質問は、採用基準とするつもりがなくても、把握してしまえば結果として採否に影響を与える可能性があり就職差別につながる可能性があります。応募者の適性や能力に関係のない事柄についての質問の例を紹介しましょう。
本籍、住所に関する質問
「あなたの本籍地はどこですか」
「あなたのお父さんやお母さんの出身地はどこですか」
「あなたの住んでいる地域は、どんな環境ですか」
「あなたの自宅付近の略図を書いてください」
などの応募者の本籍や住所に関する質問は、就職差別につながり、公正な採用選考から特定の人たちの排除につながる恐れがあります。
家族、財産に関する質問
「あなたのお父さんの勤務先を教えてください。また役職は何ですか」
「あなたのご両親は共働きですか」
「あなたの家は一戸建てですか」
「あなたの住んでいる家は持ち家ですか、借家ですか」
本籍や住所、家族構成や家族の職業、地位、収入、資産など、本人に責任のない事項を採否決定の基準とすることはもちろん、応募用紙などに記入させたり面接で質問して把握することも就職差別となります。
思想、信条、宗教に関する質問
「家の宗教は何ですか」
「政治や政党に関心がありますか」
「尊敬する人物を言ってください」
「学校外での加入団体を言ってください」
思想や信条、宗教、人生観、支持する政党など、信教の自由や思想・信条の自由といった憲法で保障された個人の「自由権」に属する事柄です。これらの事項によって採否を決定することは、基本的人権を侵すこととなります。また、直接質問しなくても形を変えた質問を行い、把握しようとするような行為も行うべきではありません。
男女雇用機会均等法に抵触する質問
「結婚や出産をしても働き続けられますか」
「結婚の予定はありますか」
「実家か一人暮らしか」
「何歳ぐらいまで働きたいですか」
面接試験の際に、女性だけに業務と直接関係のない質問をするのは、男女雇用機会均等法の趣旨に反する行為となります。
【障害別】障害者雇用の面接で配慮すること
身体障害
下肢障害や体幹障害により、車いすや杖を使用している場合、試験会場や面接室まで通路を十分に確保する必要があります。また、トイレに時間がかかる人もいるため、面接時間が長くなる場合には、休憩時間を取るなど配慮しましょう。
視覚障害の場合には、転倒しないように通路の幅や周辺に不要なものが置かれていないかどうかチェックします。聴覚障害の場合には、読唇しやすいように口を大きくはっきり動かして話すようにします。また状況に応じて筆談や音声字幕化ツールなど柔軟に対応するようにしましょう。
内部障害
内部障害には、障害の部位や原因によって「心臓機能障害」「呼吸器機能障害」「腎臓機能障害」「肝臓機能障害」などに分けられます。面接時に特別に配慮が必要なケースは少ないですが、事前に応募者本人に確認するとよいでしょう。面接では、症状や今後の症状の変化の見通し、業務時間内に通院の必要があるかや、服薬の状況など確認するようにしましょう。
知的障害
知的障害は、程度によって「軽度知的障害」「中度知的障害」「重度知的障害「最重度知的障害」の4つに分類されます。就業を目指す知的障害者のほとんどは軽度の知的障害者です。一般的に、一度に大量の情報を処理することや抽象的な質問やニュアンスの理解が苦手です。面接では、質問の内容をできるだけシンプルに分かりやすくして、状況に応じて時間の延長などの配慮をしましょう。
精神障害
統合失調症やうつ病、双極性障害(躁うつ病)などの気分障害など、原因となっている障害の特性によって必要な配慮が異なります。不安が大きくなりやすいといった特徴があるため、面接では緊張感を与えないようなリラックスした雰囲気をつくることが大切です。
障害者雇用の面接を行う際に注意する点
障害を持つ応募者に対する面接では、一般の雇用の場合と同様に、これまで解説してきた事項に配慮する必要がありますが、加えて「現在の障害がどのような状態であるか」や「想定している業務をどの程度出来るか」「どのような合理的配慮が必要か」などを確認することが重要です。特に知的障害者や精神障害者の採用に関しては「安定的に就業を継続できるか」が重要なポイントです。面接では次の点に配慮しましょう。
『面接』は複数回実施する
入社後のミスマッチを防ぐためにも、企業と障害者の双方が十分に理解することが大切です。企業が、応募者の障害がどのような状態でどのような点に配慮する必要があるかを、1度の面接ですべて把握するのは非常に困難です。同様に、障害者も自分がこの企業で働き続けることができそうかを、1度の面接で判断するのは難しいでしょう。
できるだけ面接を複数回実施して、お互いの理解を深めるようにしましょう。
生活リズムの確認
障害の症状や程度は、人それぞれで障害の種類だけで把握することはできません。本人に質問して確認することが大切ですが、そもそも主治医が就業可能であると判断しているかどうかを最初に確認します。
「うつ病」や「双極性障害(躁うつ病)」に代表される気分障害では、現在働けるコンディションなのかどうかを確認することも大切です。朝の起床時間や夜の就寝時間、睡眠の質、食事の時間や3食食べているか?といった質問をして規則正しい生活を送っているかを確認すると、ある程度は就業が可能かどうかの判断ができます。
雑談から本人を知る
障害のことは、デリケートな問題で企業としてもどう質問してよいのか判断が難しいと思います。障害者雇用を目指す人の多くは、自身に障害があることを開示して求人に応募していますが、なかには自分の障害についてあまり話したがらない人もいます。また生まれつきではなく、途中で障害になった人の中には、障害があることを受け入れられずに悩んでいる人もいます。
面接という緊張した場面で、本当の状態や気持ちを聞くのは難しいものです。障害者の面接では、応募者がリラックスして、「この面接官ならなんでも話せる」といった安心した気持ちになるような状況を作ることが大切です。かしこまって質問すると、どうしても緊張してしまいがちです。雑談を通じて応募者について知るような面接の進め方も検討してみましょう。
まとめ
障害者を新たに雇用する際には、入社後のミスマッチを防ぐとともに、配属や具体的な業務内容の検討、必要な配慮の把握ために、応募者の障害の種類や程度などをできるだけ詳しく知る必要があります。
面接試験では、まず最初に企業には安全配慮義務があり、従業員の障害の程度や困難な事、緊急時の対応などを把握する必要があるという点を説明して理解してもらいましょう。また、応募者が自身の障害について安心して話ができるように、リラックスした雰囲気で面接を進めることも大切です。
障害者に対して就職差別にならないような配慮は、面接時だけでなく募集から選考までの各段階で必要となります。また障害の有無に関係なく、今回の記事でご紹介したような、本籍や住所、家族、思想信条など応募者の適性や能力に直接関係のない事柄についての質問をすることは、就職差別となります。障害者を面接する際には、これらの質問してはいけない事項に十分に注意することが大切です。