障害者総合支援法とは?障害福祉サービスの概要をわかりやすく解説
更新日:2024年05月01日
障害者総合支援法は2013年に施行された障害者と障害児を対象とした障害保健福祉施策について定めた法律です。障害保健福祉施策はノーマライゼーションの理念に基づいた2003年の支援費制度を皮切りに大きく変わり、その後も、改正を重ねて現在に至ります。ここでは障害者総合支援法のサービス内容、仕組み、対象者などを中心にわかりやすく解説していきます。
目次
障害者総合支援法とは?
障害者総合支援法は、障害のある人が基本的人権のある個人としての尊厳にふさわしい日常生活や社会生活を営むことができるように、必要となる福祉サービスに関わる給付・地域生活支援事業やそのほかの支援を総合的におこなうことを定めた法律です。
2013年に、それ以前に施行されていた障害者自立支援法を改正する形で成立しました。
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障害者総合支援法に至るまでの障害保健福祉施策の変遷
日本の障害保健福祉施策は、様々な変遷を経て現在の障害者総合支援法に至っています。障害者総合支援法は、正式には「障害者の日常生活及びに社会生活を総合的に支援するための法律」といいますが、本ページでは障害者総合支援法と記述します。
2000年 社会福祉基礎構造改革
現在の障害者総合支援法の発端となったのは、2000年の社会福祉基礎構造改革にあります。国は社会福祉基礎構造改革において、一部の社会福祉事業を除き、これまでの行政側に決定権がある措置制度を改め、サービスの利用者が自らの意志で利用するサービスについて選択できる利用制度に方向転換しました。
社会福祉サービスの質と量の向上を掲げ、事業参入の規制緩和をおこない、企業の参加を促進しました。それまで自治体や社会福祉法人が運営を独占してきた福祉サービスの質の停滞を受け、福祉サービスにも競争原理が導入されました。
2003年 支援費制度の開始
現在の障害者総合支援法のもととなる制度は支援費制度といい、2003年に公布されました。支援費制度は、従来の日本の障害保健福祉施策とは大きく一線を画すものでした。
支援費制度は保険制度ではありませんが、認定、程度区分、サービス提供のプロセスを、すでに存在していた高齢者の介護保険制度を参考にしながら、従来より充実したサービス内容を揃え開始されました。
支援費制度は施行からわずか数年で予想以上のサービス利用による財源不足と、サービス利用料に地域差があるなどの問題があり改正を余儀なくされます。
2006年 障害者自立支援法
支援費制度の課題を解決し、改正法として施行されたのが2006年の障害者自立支援法でした。多くの障害者が属する低所得世帯にも1割負担を課し、世帯の範囲も生計を共にする家族と広範だったため、障害者の負担が増しました。さらにサービスを提供する事業者にも不評で実質の改悪となる改正でした。
国は障害者とその家族から違憲訴訟を起こされ、同法は廃止となってしまいました。訴訟の和解の際に取り交わされた基本合意に基づいて施行されたのが、現行の障害者総合支援法なのです。
障害者総合支援法の目的と基本理念
障害者総合支援法の目的は「障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活または社会生活を営む」ことです。これを地域生活支援事業などにより総合的な支援をするとしています。
基本理念としては
①障害者も他の国民同様に個人として尊重される
②障害の有無に関係なく相互に人格と個性を尊重し合える共生社会を実現する ③障害者・障害児が可能な限り身近な場所で支援を受けられること ④社会参加の機会が確保されること ⑤どこで誰と住むかなど他者との共生が妨げられないこと ⑥障害者・障害児が社会生活をする上での障壁の除去に資すること |
を掲げています。
障害者総合支援法は、障害者・障害児が他の国民と同じように、基本的人権が守られ、自立した社会生活を送れるように様々な支援をおこなうことが目的と理念といってよいでしょう。
障害者総合支援法のサービスの枠組み
障害者総合支援法下のサービスは、障害者と障害児という対象者で明確に分けられています。
障害者へのサービスは自立支援給付という給付金の対象サービスです。
自立支援給付には、介護系サービスの介護給付、自立、社会生活を支援する訓練等給付、相談支援、地域生活支援事業があります。
主だった障害者対象のサービスを見ていきましょう。
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介護給付のサービス
・居宅介護
・重度訪問介護
・同行援護
・行動援護
・重度障害者等包括支援
・短期入所(ショートステイ)
・療養介護
・生活介護
・施設入所支援
訓練等給付のサービス
・自立訓練
・就労移行支援
・就労継続支援(A:雇用型 B:非雇用型)
・就労定着支援
・自立生活援助
・共同生活支援(グループホーム)
相談支援のサービス
・計画相談支援
・地域移行支援
・地域定着支援
自立支援医療
・更生・育成医療
・精神通院医療
地域生活支援事業
地域生活支援事業は市町村事業と都道府県事業に分けられており、相談支援や障害者支援に関わる人員の派遣や養成、研修など間接的なサービスが多くなっています。
補装具費支給制度
障害の状況から必要になる補装具の購入、借受け、修理に関する費用も自立支援給付の範囲内となっています。補装具の種類は、義肢・装具・車いすなどが対象となります。
利用の際には、市町村に費用支給の申請を行います。
障害児を対象とする障害者総合支援法のサービス
障害児が対象となるサービスは、一部障害者の給付サービスが含まれる以外に、
・都道府県の管轄となる障害児入所支援(福祉型障害児入所施設、医療型障害児入所施設)
・市町村の管轄となる障害児通所支援(児童発達支援、医療型児童発達支援
・放課後等デイサービス
・居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援)
があります。
【障害児入所支援】
障害児入所支援とは入所型のサービスでいわゆる生活施設を指します。入所に関しては児童相談所へ相談、申請し、家庭での養護が出来ない事情について調査があり、児童相談所が措置入所の判断をします。
【障害児通所支援】
障害児通所支援の児童発達支援は、対象児童の状態によって福祉型の児童発達支援センターか医療型の児童発達支援センターの利用ができます。治療と保育を同時に行ういわゆる”療育”施設で、障害児のための幼稚園、保育園のようなイメージです。
【放課後等デイサービス】
放課後等デイサービスは一般的に”放課後デイ”、”放デイ”などとして知られるもので、障害のある児童のための学童保育サービスという位置づけです。
【保育所等訪問支援】
保育所等訪問支援は児童発達支援センターなどの療育や発達の専門家が該当する障害児の保育園や幼稚園など集団生活の場での適応に関して訪問支援するものです。
障害者総合支援法の対象者と利用方法
障害者総合支援法の対象となるのは?
障害者総合支援法の対象者は、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害を持つ成人と児童、そして300種類以上ある難病患者です。
障害者自立支援法までは対象でなかった発達障害と難病が含まれるようになったのは大きな前進といってよいでしょう。
障害者総合支援法のサービスを利用したいとき
障害者総合支援法のサービスを利用したい場合、住んでいる市町村の窓口に申請します。
【介護給付の場合】
同法の福祉サービスにかかる給付のうち、介護給付のサービスを受ける場合は障害支援区分認定調査を受けます。
1.移動や動作等に関連する項目
2.身の回りの世話や日常生活等に関連する項目
3.意思疎通等に関連する項目
4.行動障害に関連する項目
5.特別な医療に関連する項目
上記に関する全80項目の調査を受け、最終的に1(低)~6(高)の区分認定がなされます。
【訓練等給付費の場合】
訓練等給付費のサービスについては一部を除き認定調査は必要ありません。
ただし、場合によっては障害区分により受けられるサービスが変わってきます。
指定特定相談支援事業者にサービス等利用計画案を作成してもらい、市町村の支給決定を受けてサービス担当者会議、最終的にサービス等利用計画の作成を経てサービスの利用が開始されます。
その後は状況を見ながら定期的に計画の見直しが行なわれます。
サービス等利用計画案は、近くに指定特定相談支援事業者がいない場合、それ以外の者によるセルフプランの提出も可能となっています。”それ以外の者”にはサービス利用を希望する当事者やその家族、支援者が想定されています。
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障害者総合支援法下のサービス利用料と自己負担
日本における福祉サービスの利用料の大部分は税収により賄われています。国民の大部分が利用する年金制度や保険制度については税金以外の形で別途徴収があるのは既知のことです。被雇用者の場合、毎月の給与からこれらの徴収額が差し引かれています。
現在の少子高齢社会では、介護保険を中心とした高齢者福祉に掛かる費用の捻出が大きな問題となっており、今後ますます、国民の理解と負担が求められる部分です。
障害者総合支援法の各種サービスの利用料は原則毎月の支払いとなります。利用しているサービスの総額の1割が利用者負担(残りは給付、公費負担)となりますが、これではいわゆる”応益負担”という方式になり、問題となった障害者自立支援法と変わりませんので、ここに世帯収入の区分を設け、負担上限付きとしました。
その区分と上限月額は以下のようになっています。
①生活保護世帯…0円
②市町村民税非課税世帯…0円 ③一般1 (市町村税課税世帯で収入がおおむね600万円以下)…9300円 (障害児の通所施設、ホームヘルプの利用は4600円) ④一般2(上記以外)…37200円 |
入所施設とグループホームの利用者で、市町村民税課税世帯であれば”一般2”の区分となりますので注意が必要です。
利用者負担上限の対象はあくまで同法上の福祉サービスのみで、入所型の施設利用では食費や光熱水費が別途、通所型の施設利用では食費、医療型の施設では医療費が別途実費負担となります。
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サービス利用料が負担上限額あり低く抑えられても、これらの額が高額になれば大きな負担になります。そのため、入所施設では上限53500円、市町村税非課税世帯では手元に最低でも25000円残るように減免措置が取られています。
障害児の施設利用についても、これらの実費は”地域で子どもを育てるために通常必要な費用”として50000円の負担額上限が設定されています。
障害者自立支援法で問題視されていた世帯の範囲については、18歳以上の障害者は本人とその配偶者とし、障害児の場合は保護者の属する住民基本台帳での世帯とされました。
障害者総合支援法の問題点と展望
以前の障害者自立支援法が悪法とも言われ、国は違憲訴訟を起こされました。改正を経て現在の障害者総合支援法になったのですが、現法も本質は障害者自立支援法とそう変わってはいないという厳しい意見もあります。
例えば、利用者負担の所得計算については個人単位ではなく世帯単位であることが挙げられます。
自分に障害があることで同居の家族や配偶者に経済的負担をかけてしまうのは、本当に社会的自立なのかという疑問が出てしまいます。
同法が介護保険方式なのは将来的には介護保険制度との統一を視野に入れているためとされています。介護保険の方が利用者負担については1割負担には厳粛で、将来的にはそれが障害福祉サービスにも適用される可能性も危惧されています。
国の財政が大きく改善されなければ障害福祉サービスを含む社会保障や社会福祉制度の維持は厳しいと言えるでしょう。