精神障害者の就活はうまくいかない?就職状況と就活のポイントを解説
更新日:2025年12月04日

精神障害を持っている人は何かを始めても、障害により具合が悪くなってしまうことも多々あります。それは仕事に関しても同じです。障害のために具合が悪くなり、仕事が続かないかもしれない…そんな不安を抱える就活生もいるでしょう。ここでは精神障害がある就活生が、これからも長く安定して働き続けることを目指すためにすべきことを解説していきます。精神状態が悪化した場合の事例についても併せて紹介していきます。

目次
精神障害者の就職状況
厚生労働省の令和6年障害者雇用状況の集計結果によると、民間企業の雇用障害者数は67万7,461.5人、実雇用率は2.41%となり、いずれも過去最高を更新しました。
中でも精神障害者の雇用の伸びが顕著です。平成30年の障害者雇用促進法改正(精神障害者の雇用義務化)を背景に、雇用数は年々増加しています。

上記のグラフからもわかるように、法改正前の平成29年(約5万人)から令和6年には15万717.0人に増加し、約3倍の伸びを見せています。他の障害種別を上回る高い伸びを記録しており、雇用の柱の一つとなっています。
精神障害の雇用者数と実雇用率

上記グラフのように、精神障害者の雇用者数と実雇用率は、調査期間を通じて一貫して右肩上がりで増加しています。
雇用者数は、平成18年(2006年)の2千人から、雇用義務化の対象となった平成30年(2018年)を境に伸びが加速し、令和4年(2022年)には109千人(10万9千人)へと大幅に増加しました。
これにともない、実雇用率も継続的に上昇しており、平成18年(2006年)の1.52%から、令和4年(2022年)には2.25%に達しています。
このデータは、法制度の改正を背景に、企業の精神障害者雇用への取り組みが本格化し、精神障害者の雇用機会が飛躍的に拡大していることを示しています。
ハローワークを通じた職業紹介状況
精神障害者雇用の拡大傾向は、ハローワークの職業紹介件数のデータによっても裏付けられています。

2012年度において、新規求職申込件数に占める精神障害者の割合は約3割でしたが、2022年度になると、その割合は5割を超える水準にまで拡大しています。
この変化は、精神障害者が障害者手帳を取得し、企業での雇用を希望するケースが急増していることを示しており、精神障害者が障害のある求職者の大半を占める状況へと変化したことを表しています。
こうした雇用数と紹介件数の増加は、精神障害者の社会参加が進展している証ですが、一方で、企業側には長期的に安定して働ける 職場環境の整備や定着支援が、最重要課題として残されています。
精神障害者の就職における課題
精神障害者の雇用者数・紹介件数が増加し、社会参加が進む一方で、就職後の職場定着率の低さが最大の課題となっています。
障害者が障害を開示して就職するオープン就労と、非開示で就職するクローズ就労の2種類がありますが、いずれのケースでも精神障害者の定着率は低い傾向にあります。特に一般企業でクローズ就労した場合の定着率の低さは顕著です。
障害者職業総合センターの調査によると、就職後1年時点の職場定着率は、精神障害が49.3%と、身体障害(60.8%)、知的障害(68.0%)、発達障害(71.5%)と比較して最も低い水準にあります。3か月時点での離職も目立ちます。
このデータから、精神障害者の就職においては、いかにして職場に定着し続けるかが重要な課題であると言えます。安定して働き続けるための職場環境の整備や継続的なサポート体制の構築が求められます。
精神障害者雇用で企業がチェックするポイント
精神障害者を雇用する際、企業が安定した就労と職場定着を実現するためにチェックするべきポイントは多岐にわたりますが、特に「意思疎通」「体調管理」「周囲のサポート体制」の3点が重要となります。これらの要素は、障害を持つ方がその能力を最大限に発揮し、企業側も安心して雇用を継続するための基盤となります。
意思疎通が図れるか
円滑な業務遂行と職場の人間関係構築の基礎となるのが意思疎通能力です。
最も重視されるのは、報連相(報告・連絡・相談)の正確性とタイミングです。業務の進捗や、特に体調の変化やミスを隠さずに、適切なタイミングで上司に正直に伝えられるかが重要です。
また、曖昧でなく具体的かつ簡潔に状況や要望を伝えられるスキルも求められます。
さらに、指示内容を正確に理解し、復唱や質問で確認する姿勢、メールやチャットなどの多様なコミュニケーション手段を適切に使えるかも評価されます。
意思疎通のスキルは、障害特性によって個人差が大きいため、企業側は面談や実習を通じて、その方の特性に合わせた伝え方や配慮の仕方を把握しようとします。
体調が整っているか
人事担当者が最初に確認するのは、病状が安定し、継続的な就労が可能かです。精神障害のある人は心身の調子に波があるため、企業は採用前にその安定度を判断したいと考えます。
最重要視されるのは、安定した生活リズムと適切な服薬管理ができているかです。
また、体調不良のサインを自己認識し、悪化する前に休憩を取る、上司に相談するなど、適切に自己対処できる能力が求められます。
さらに、自身の障害名、症状、業務で配慮してほしい具体的な内容を企業側に説明できることが、適切な合理的配慮を受けるための前提となります。企業は、現在の体調の安定度と自己管理能力を慎重に見極めます。
周囲の理解やサポート体制があるか
精神障害のある人が安定して働き続けるには、職場外の協力体制が不可欠です。企業は、本人を支えるセーフティネットが機能しているかをチェックします。
特に重視されるのは、家族や医療機関との連携です。不意に体調を崩した際、欠勤連絡や状況説明など、緊急時に家族の協力を得られる体制があるかが重要です。これは、本人だけでなく、職場の安心感にもつながります。
また、主治医に加え、就労移行支援事業所や就労定着支援事業所、ジョブコーチなどの外部専門家と連携し、継続的なサポートを受けられるかどうかも採用の大きな判断ポイントになります。
企業は、これらのサポート体制が機能的であり、問題解決に貢献できるものかを見極めます。
精神障害の方が就職活動をする時や長く働き続けるためのポイント
自己分析しながら就職活動をする
何かを長く続けようと思っても、途中で具合が悪くなり長く続かないという悩みを持つ方も精神障害を持つ方の中には多いと思います。
このように、具合が悪くなってしまうことは周囲の十分なサポートを受けることができていても、十分に起こりえることです。

ここで大切なのは、具合が悪くなった時に具合が悪くなりだしたころまでさかのぼって、何か原因となる出来事がなかったか自分を分析してみることです。
しかしこの作業はとても面倒で、具合が悪い時には簡単にできることではありません。ですので具合が悪い時には調子を立て直すことに専念し、具合が良くなってから原因を探ることをお勧めします。
具合が悪くなる原因の事例として、仕事が自分が予定していた通りに進まなかった、そのために自分に対して嫌悪感を抱いてしまうといったものもあります。
他には、集中しすぎて疲労を溜めてしまい、仕事で失敗をしてしまったなどの原因で具合が悪くなってしまう人もいるでしょう。
このように、どのようなことが原因となって具合が悪くなってしまうかということをはっきりとさせることで、具合が悪くなる前に取るべき対処法を考えることができるのです。
自分のペースで就職活動や仕事を進める
物事を長く続けると具合が悪くなる原因が分かったら、その解決法を考える段階へ進みましょう。
物事を多く詰め込みすぎた予定を立てていて全てを実行できなかったことが原因だとしたら、自分を責めるのではなく「できなくても仕方ないよね」と考え方を変えてみるという方法を取りましょう。決して自分を責めてはいけません。
そして次回に予定を立てる際には、予定を入れすぎずに余裕のあるペースで物事をこなすことができるように、分量を抑えておくなどの工夫をすることが大切です。
また、集中しすぎて疲労を溜めすぎてしまう場合には、疲労が溜まり仕事のミスを引き起こしてしまう前に、一定の時間を定めて小休止の時間をとるなどの解決法があります。
具合が悪くなる原因は、自分の能力不足や心の弱さから来るものではなく、自分が持つ障害の特性からくるものであることを理解しましょう。
このように自分が具合が悪くなる原因を突き止めることで、その解決法を見出すことができます。
具合が悪くなる原因の解決法を見出すまでには、長い時間が必要となることもあります。その間にまた具合が悪くなることもあるでしょう。そのような場合でも、周囲の人が障害に理解を示してくれていれば、時間をかけて正確な原因を突き止めることができます。
精神障害を持つ就活生は、自分の持っている障害の特徴を把握して、就職を希望する会社にどのような配慮をして欲しいかきちんと伝える必要があります。
そのためには、この具合が悪くなる原因と対策についてきちんと自己分析をしておくことが大切です。
就職活動や仕事をサポートしてくれる家族や企業側の協力も仰ぐ
具合が悪くなる原因とその解決法が分かったら、それを実行してみましょう。
これは会社に就職してから行うのではなく、就職前の普段の生活の中で行い、効果があるかどうかを試しておく必要があります。
特に、具合が悪くなる予兆を感じた時に自己分析した内容を思い返して実行することで、その効果を確認しておくことが大切です。
このように自分の障害からくる具合の悪さとその原因を自己分析することで、自分の障害への理解が深まります。ここまでくれば、具合が悪くなった場合にもすぐに対処することができ、就職しても症状を安定させることが可能です。

しかし、仕事の予定を自分のペースで立てたり、一定時間の小休止を取ったりといった解決法は、周囲の理解がないと実践することができません。
そのため、就職活動を行う際に配慮してほしい事柄として、企業側にきちんと伝えておくことが重要になってきます。この配慮の希望を伝えることを怠ると、就職しても周囲の人たちの理解を得ることができず、居心地の悪さを感じて早期離職してしまう可能性もあります。
このような事態を避けるためにも、自分の障害とその特性をしっかりと把握し、企業側に正確に伝える必要があります。
安心して希望の企業へ就職するためにも、この3つの段階を踏んだ自己分析を行い、自分の障害に対する理解を深めておきましょう。
そうすることで企業側にも自分の障害に対して理解してもらうことができ、長期にわたり安定して働き続けることができます。
精神障害者の就職活動に活かせるサポートサービス
精神障害者の就職を支援してくれる社会資源には、さまざまなものがあります。
就職を実現するために利用できる社会資源とは、有償・無償の行政サービスと民間サービスのことです。例えば、各地域の障害者支援センター、職業訓練センター、ハローワークなどがあります。
今回はそのような社会資源の中でも、就労移行支援事業所に焦点を当てて解説していきます。
就労移行支援事業所とは、障害のある人の一般企業への就職をサポートしてくれる通所型の福祉サービスの事です。
就労移行支援サービスは、もちろん精神障害を持つ就活生も利用することが可能です。
しかし、この福祉サービスを受けるためにはいくつかの条件があります。
その条件とは、
・一般企業への就職を希望していること
・18才以上で満65才未満であること
・原則として離職中であること
の3点です。
就労移行支援事業所は地方自治体から指定を受けてサービスを提供しています。その数は全国で約3300ヶ所に及びます。
では、就労移行支援事業所においてどのようなサービスを受けることができるのでしょうか。
就職前には一般企業で働き続けるための力を身につける職業訓練を受けることができ、就職活動のサポートも受けることができます。
職業訓練では、職場で必要とされるスキルだけではなく、体調管理の方法やコミュニケーションスキルなど、働き続ける上で欠かすことができないことを研修や実習で身につけることができます。また、応募書類の作成や面接対策などの就職活動のサポートを受けることも可能です。
さらに就職した後も職場定着支援として、相談に対応してくれたり、企業への環境調査依頼を行ってくれたりといったサポートを受けることができます。
精神障害者の方が就労移行支援事業所を利用して就職した事例
40代のAさんは、抑うつと広汎性発達障害という障害を持っています。40代になるまで漠然とした生きづらさを感じていました。しかし、数年前自分が体調を崩したことをきっかけに、精神障害の診断を受け、生きづらさが精神障害によるものであると気付いたのです。
体調を崩して離職していましたが、この精神障害の診断を受けたことをきっかけとして障害者雇用による就職を考え、就労移行支援事業所に通所を始めました。
就労移行支援事業所への通所は約半年間で、Aさんは自分の障害と向き合い、今後障害とともに生きていくための考え方と行動法を身につけたのです。
健常者と同様の働き方では、問題に遭遇した場合に深く悩んでしまうため、客観的な視点を持ち、悩みが深まる前に気持ちを切り替える方法を身につけることができました。
それ以外にも収穫はありました。以前は人と同じように評価してほしいがために苦手な事柄に必死で取り組んだにも関わらず、結果を出せずに落ち込むこともあったのです。
しかし、就労移行支援事業所に通った後では、好きなことや得意なことをして心を満たすことで、自己肯定感を高める方法を身につけることができました。
就労移行支援事業所に通うことで、自分の障害を受け入れ、向き合うことができるようになったのです。
このように、就労移行支援事業所に通うことで、自分が働く上での注意点を見つけ、生活の面においても健康管理の方法や自己肯定感の高めかたを見つけることができます。
精神障害を持つ就活生も、この就労移行支援事業所を利用して、自分にどのような働き方が向いているのか、その方法を学んでみることをお勧めします。








